(
2009/05/05)
創作戦国
滅多に見られぬ表情を見た。
「・・・近い」
心からの拒否を示した幸村に勝永はしょげ返るどころかにやりと笑った。
勝永との会話において、相手が彼の知人であった場合、彼は極度に顔を近づけて会話をする。
何故かと問う者も少なくない。
そういった時、彼は決まって
「愛してるから」
と至極綺麗な表情で言ってのける。
言われた相手の表情は多言を要しないだろう。
幸村は勝永の手強さを再確認したのか、はたまた呆れてものも言えないのか、一拍置いた後に、自ら一歩分離れた。
勝永はこれ見よがしにちぇっと舌打ちする。
「あーいしてるのにぃ」
「・・・」
「ちょっと。引かないで下さいよ」
また一歩分離れようとする幸村をちょいちょいと片手で招きながら勝永は苦笑する。
この拒否は彼なりの冗談であることを勝永はわかっていた。
わかっていた、とは言っても彼が時折、意識的であれ無意識的であれわかりやすく伝えてくれるおかげでもあるのだが。
「勝永殿」
結局離れることはせずに、幸村は座り直した。
顔を近づけ過ぎないように心掛けて、勝永はなに、と小首を傾げた。
「・・・今度、ひそひそ話、しましょうね」
ふわりとした微笑でふわりと一方的に告げると、すっくと立ち上がって勝永に視線をくれることも無く去った。
呆然と見送りしばらく放心した表情でいた勝永だったが、ふっと我に返り、
「照れてた」
誰にとも無くぽつりと呟いた。
-----------------------------
勝永にとって「愛してる」は信頼とか味方宣言。
近付くのは無論お近づきになりたいから。
「ひそひそ話」は相手との至近距離での会話。つまり
いやなんか、愛してるを勝永に、ひそひそを幸村に言わせて見たかったんです。
まぁ、そんなこんなで考えて一人でによってしました(・・・)
「・・・近い」
心からの拒否を示した幸村に勝永はしょげ返るどころかにやりと笑った。
勝永との会話において、相手が彼の知人であった場合、彼は極度に顔を近づけて会話をする。
何故かと問う者も少なくない。
そういった時、彼は決まって
「愛してるから」
と至極綺麗な表情で言ってのける。
言われた相手の表情は多言を要しないだろう。
幸村は勝永の手強さを再確認したのか、はたまた呆れてものも言えないのか、一拍置いた後に、自ら一歩分離れた。
勝永はこれ見よがしにちぇっと舌打ちする。
「あーいしてるのにぃ」
「・・・」
「ちょっと。引かないで下さいよ」
また一歩分離れようとする幸村をちょいちょいと片手で招きながら勝永は苦笑する。
この拒否は彼なりの冗談であることを勝永はわかっていた。
わかっていた、とは言っても彼が時折、意識的であれ無意識的であれわかりやすく伝えてくれるおかげでもあるのだが。
「勝永殿」
結局離れることはせずに、幸村は座り直した。
顔を近づけ過ぎないように心掛けて、勝永はなに、と小首を傾げた。
「・・・今度、ひそひそ話、しましょうね」
ふわりとした微笑でふわりと一方的に告げると、すっくと立ち上がって勝永に視線をくれることも無く去った。
呆然と見送りしばらく放心した表情でいた勝永だったが、ふっと我に返り、
「照れてた」
誰にとも無くぽつりと呟いた。
-----------------------------
勝永にとって「愛してる」は信頼とか味方宣言。
近付くのは無論お近づきになりたいから。
「ひそひそ話」は相手との至近距離での会話。つまり
いやなんか、愛してるを勝永に、ひそひそを幸村に言わせて見たかったんです。
まぁ、そんなこんなで考えて一人でによってしました(・・・)
PR
(
2009/04/25)
創作戦国
さっと手を水に触れさせて、適度な量の米を掬い上げる。
手際良く握るその手は熱で赤らみ始め。
じとと凝視していると、彼こだわりだという塩がほんのり香ってきた。
次々と作られそして六個目が盆の上に置かれた。
美味そうだ、と思った直後
「物欲しそうな目をしておられる」
その言葉に又兵衛は顔を上げた。
全登の動作は次の握り飯を作ろうと早動き出している。
「ばれたか」
童のように又兵衛がにやつくと、全登はけらけら笑った。
「お一つどうぞ。出来立てが最も美味しいでしょうし」
「では遠慮無く頂こう」
又兵衛が手に取った握り飯はふっくらとした三角形であった。
一口頬張れば、味は塩のみと言った素朴な味ながらほどよく、思わず
「美味い」
と又兵衛は舌鼓を打った。
指先の米粒をぺろりと舐め上げ漸く又兵衛は満足そうに一息ついた。
目を細めて眺めていた全登が、突然ぽつりと呟いた。
「以前、某の握り飯が好きだとおっしゃられた方がおりました」
「・・・。宇喜多殿か」
又兵衛が視線を全登に向けた時には、既に彼は新たな握り飯へと目を向けていた。
「そう、ですね。秀家様も好きだとおっしゃって下さいました」
引っ掛かる言い様に又兵衛は小首を傾げたが敢えて沈黙した。
全登は何処か遠くを見ているようだった。
「・・・今、何をしているのか」
握り飯をそっと並べて微笑む彼が何時もの彼には見えず。
又兵衛はぱちぱちと瞬きした。
触れるべきではないのか。
そう思っていると、全登がにこりと微笑んだ。
何時ものようだった。
「さて。握り飯好きを増やしに参りましょうか」
----------------------------------
借りモノが急に見たくなった時って、すごくもやもやします。
そんな感じでふと。
何で握り飯作ってるの、とかはどうか触れずに・・・。
手際良く握るその手は熱で赤らみ始め。
じとと凝視していると、彼こだわりだという塩がほんのり香ってきた。
次々と作られそして六個目が盆の上に置かれた。
美味そうだ、と思った直後
「物欲しそうな目をしておられる」
その言葉に又兵衛は顔を上げた。
全登の動作は次の握り飯を作ろうと早動き出している。
「ばれたか」
童のように又兵衛がにやつくと、全登はけらけら笑った。
「お一つどうぞ。出来立てが最も美味しいでしょうし」
「では遠慮無く頂こう」
又兵衛が手に取った握り飯はふっくらとした三角形であった。
一口頬張れば、味は塩のみと言った素朴な味ながらほどよく、思わず
「美味い」
と又兵衛は舌鼓を打った。
指先の米粒をぺろりと舐め上げ漸く又兵衛は満足そうに一息ついた。
目を細めて眺めていた全登が、突然ぽつりと呟いた。
「以前、某の握り飯が好きだとおっしゃられた方がおりました」
「・・・。宇喜多殿か」
又兵衛が視線を全登に向けた時には、既に彼は新たな握り飯へと目を向けていた。
「そう、ですね。秀家様も好きだとおっしゃって下さいました」
引っ掛かる言い様に又兵衛は小首を傾げたが敢えて沈黙した。
全登は何処か遠くを見ているようだった。
「・・・今、何をしているのか」
握り飯をそっと並べて微笑む彼が何時もの彼には見えず。
又兵衛はぱちぱちと瞬きした。
触れるべきではないのか。
そう思っていると、全登がにこりと微笑んだ。
何時ものようだった。
「さて。握り飯好きを増やしに参りましょうか」
----------------------------------
借りモノが急に見たくなった時って、すごくもやもやします。
そんな感じでふと。
何で握り飯作ってるの、とかはどうか触れずに・・・。
(
2009/04/19)
創作戦国
くつくつ。
押し殺したような声が響く。
それがとても聞き慣れた声だったので、秀長は首を傾げた。
この様子は何故だか相手には余計に笑わせる要素であったらしく、秀長は不快感を表に出した。
「なに笑っとる」
むすっとした彼に対して相手は悪びれることなく即座に言ってのけた。
「別に。おみゃーの顔見とっただけじゃ」
「・・・兄上。それすごく失礼」
「あっはは」
秀長の冷えた返しに、言葉の通り、秀吉は笑い転げた。
本気で不快を感じているわけではなし。
加えて兄弟だからという甘えもある。
素直な感情をそのままに、程度の差はあれど二人は笑い合った。
ふと。
笑うというよりも呆れ返った様子だった秀長に、秀吉は手を伸ばした。
秀長が疑問を感じるよりも早く、兄の手は弟を乱暴にけれど温かく撫ぜた。
「・・・っ?」
目を丸くして硬直する秀長に対して秀吉はにかっと笑う。
彼特有の笑い方だった。
「ほれ」
そう言って差し出された手に秀長は視線を向ける。
秀吉の指先には桜がつままれていた。
「花びら・・・?」
「おう。ちょこんと生えとった。全然気付かんかったなぁ?」
けたけたと笑いながら大げさに上半身を傾ける秀吉に、秀長は肩をすくめてみせた。
「なんだ。撫でたわけじゃなかったのか」
「うん?」
「桜は、満開でも散り際でも花びらでも美しいなぁ、兄上?」
引っ掛かりを感じた秀吉が何か言いたそうな顔をしたが、話題を変えてきた秀長の言葉に素直に頷くことにした。
「確かに。・・・綺麗じゃな」
ひとつ頷き。
秀吉は改めて指先にそっとつままれている桜を見つめた。
その秀長から摘み取った桜の花びらを見つめる兄の表情が、弟の瞳にはどこか憂いを帯びているようにも映った。
「あにうえ、」
似合わないことをするな。
皮肉めいて声を掛けようとした秀長の前に春風吹いて、
美しき桜吹雪が彼を隠した。
--------------------------
さいごの「彼」がどちらにも取れるようにしてみた、り・・・どうでしょう(どうでしょうって
結局は、兄弟好きなんだよーう、という話。
押し殺したような声が響く。
それがとても聞き慣れた声だったので、秀長は首を傾げた。
この様子は何故だか相手には余計に笑わせる要素であったらしく、秀長は不快感を表に出した。
「なに笑っとる」
むすっとした彼に対して相手は悪びれることなく即座に言ってのけた。
「別に。おみゃーの顔見とっただけじゃ」
「・・・兄上。それすごく失礼」
「あっはは」
秀長の冷えた返しに、言葉の通り、秀吉は笑い転げた。
本気で不快を感じているわけではなし。
加えて兄弟だからという甘えもある。
素直な感情をそのままに、程度の差はあれど二人は笑い合った。
ふと。
笑うというよりも呆れ返った様子だった秀長に、秀吉は手を伸ばした。
秀長が疑問を感じるよりも早く、兄の手は弟を乱暴にけれど温かく撫ぜた。
「・・・っ?」
目を丸くして硬直する秀長に対して秀吉はにかっと笑う。
彼特有の笑い方だった。
「ほれ」
そう言って差し出された手に秀長は視線を向ける。
秀吉の指先には桜がつままれていた。
「花びら・・・?」
「おう。ちょこんと生えとった。全然気付かんかったなぁ?」
けたけたと笑いながら大げさに上半身を傾ける秀吉に、秀長は肩をすくめてみせた。
「なんだ。撫でたわけじゃなかったのか」
「うん?」
「桜は、満開でも散り際でも花びらでも美しいなぁ、兄上?」
引っ掛かりを感じた秀吉が何か言いたそうな顔をしたが、話題を変えてきた秀長の言葉に素直に頷くことにした。
「確かに。・・・綺麗じゃな」
ひとつ頷き。
秀吉は改めて指先にそっとつままれている桜を見つめた。
その秀長から摘み取った桜の花びらを見つめる兄の表情が、弟の瞳にはどこか憂いを帯びているようにも映った。
「あにうえ、」
似合わないことをするな。
皮肉めいて声を掛けようとした秀長の前に春風吹いて、
美しき桜吹雪が彼を隠した。
--------------------------
さいごの「彼」がどちらにも取れるようにしてみた、り・・・どうでしょう(どうでしょうって
結局は、兄弟好きなんだよーう、という話。
(
2009/04/15)
創作戦国
「真田殿、本日は兵に稽古をつけますか」
「食事の用意が出来たそうですよ、真田殿」
「真田殿、今宵は某と一献、どうですか」
しつこいしつこいしつこい。
仕方が無い事なのだが、毎日のように顔を合わせる男に幸村はうんざりした。
にこにこを微笑んでくる彼に対して幸村はにこりともしない。
それでも彼は幸村を慕った。
慕うというのはまた違うかもしれない。
年下なわけではないのだから。
「真田殿」
出丸で見事に鉢合わせた二人は、実に対照的な表情を浮かべて向き合っていた。
「お断りします」
「まだ何も言ってませんけど・・・?!」
にこやかな表情が一転慌てたように、素通りしようとする幸村の進路を阻んだ。
「伊木殿、邪魔」
その気迫に射抜かれる思いをしつつ、けれど遠雄は諦めなかった。
なんとか視線を逸らさずに口を開いた。
「お話だけでも・・・だッ」
言い切ることも出来ず足払いを掛けられ遠雄は空しく地に伏した。
幸村は何事もなかったのかのように歩き出す。
が、ついに遠雄の声に足を止めた。
「真田殿!上田の酒を、手に入れました!どうですか!」
「上田の、酒・・・?」
反応を示した幸村に遠雄は勢いよく起き上がった。
「好きでしょう」
変わらずにこりと微笑む遠雄。
「手に入れるの、大変だったんですよ」
出丸に置いてますよ、と遠雄は出丸を指し示した。
それはまた、行きましょうという合図でもあって。
「・・・」
餌付けされている。
そう思いつつも、幸村はやがてゆっくりと歩を進めた。
足先は出丸に向かう。
遠雄が幸村の横に並び歩調を合わせた。
「伊木殿の顔を見る度に、虫酸がはしる・・・」
「某は貴殿の顔を見る度に、胸に飛び込みたくなります」
「気持ち悪い」
表情を歪ませぴしゃりと言う。
遠雄は相変わらずの表情をしていた。
幸村がくすりと笑った。
-----------------------------------
某様に影響されてというかなんというか。
この二人は端から見ればDVだよ、という仲の良さがあればいいな、なんて(謎
遠雄好きですよ。勿論!
「食事の用意が出来たそうですよ、真田殿」
「真田殿、今宵は某と一献、どうですか」
しつこいしつこいしつこい。
仕方が無い事なのだが、毎日のように顔を合わせる男に幸村はうんざりした。
にこにこを微笑んでくる彼に対して幸村はにこりともしない。
それでも彼は幸村を慕った。
慕うというのはまた違うかもしれない。
年下なわけではないのだから。
「真田殿」
出丸で見事に鉢合わせた二人は、実に対照的な表情を浮かべて向き合っていた。
「お断りします」
「まだ何も言ってませんけど・・・?!」
にこやかな表情が一転慌てたように、素通りしようとする幸村の進路を阻んだ。
「伊木殿、邪魔」
その気迫に射抜かれる思いをしつつ、けれど遠雄は諦めなかった。
なんとか視線を逸らさずに口を開いた。
「お話だけでも・・・だッ」
言い切ることも出来ず足払いを掛けられ遠雄は空しく地に伏した。
幸村は何事もなかったのかのように歩き出す。
が、ついに遠雄の声に足を止めた。
「真田殿!上田の酒を、手に入れました!どうですか!」
「上田の、酒・・・?」
反応を示した幸村に遠雄は勢いよく起き上がった。
「好きでしょう」
変わらずにこりと微笑む遠雄。
「手に入れるの、大変だったんですよ」
出丸に置いてますよ、と遠雄は出丸を指し示した。
それはまた、行きましょうという合図でもあって。
「・・・」
餌付けされている。
そう思いつつも、幸村はやがてゆっくりと歩を進めた。
足先は出丸に向かう。
遠雄が幸村の横に並び歩調を合わせた。
「伊木殿の顔を見る度に、虫酸がはしる・・・」
「某は貴殿の顔を見る度に、胸に飛び込みたくなります」
「気持ち悪い」
表情を歪ませぴしゃりと言う。
遠雄は相変わらずの表情をしていた。
幸村がくすりと笑った。
-----------------------------------
某様に影響されてというかなんというか。
この二人は端から見ればDVだよ、という仲の良さがあればいいな、なんて(謎
遠雄好きですよ。勿論!
(
2009/04/04)
創作戦国
上機嫌に扇子を仰ぎながら、祭りを楽しむかのように自ら練り歩く男がいる。
高吉はその男を眼前にした希少な出来事に目を見張った。
半歩前を歩む高虎の視線を感じたが、高吉は男から目を離すことが出来なかった。
「あの方が、太閤殿下、ですか」
高吉の視線は何処か厳しいものがあった。
視線をそのままに尋ねる高吉に眉を僅かに顰めながら、高虎は頷く。
「そうだ」
「豊臣、秀吉・・・様」
「そうだ」
言葉足らずな吾子のように呟けば、高虎は再び静かに頷いた。
高吉は相変わらず視線を前に向けたままだった。
未だ動こうとしない彼に先を急ぐよう高虎は促したが。
反応は無いに等しかった。
その熱の篭もった視線に気付いたようで。
男が彼らの方へと身体を向けてひょこひょこと近付いて来た。
「藤堂!」
高虎を認めて男は満面の笑顔を見せた。
その笑顔に高虎は微笑を返す。
「これは、太閤殿下。お声を掛けて頂くとは」
つらつらと丁寧に述べる高虎よりも、感じた視線の主が男には気になる存在であった。
「倅、に御座います」
そっと高虎が言うと男はなるほど、そうかとゆったり頷き、
「唐入りでの功、期待しとるぞ」
男は高吉の肩を軽く叩いた。
「心得まして御座います」
にこりと頬を歪ませて高吉が頭を下げた。
その微笑みを見、眉をぴくりと動かしたが、高虎は押し黙ったままでいた。
「よし、よし」
彼の返答を満足気に男は頷き、そうして次に絡む目ぼしい武将はいないかと身を翻した。
高吉はじと穴が開かんばかりにその背を見つめ、やがて
「すみません、義父上。行きましょう」
いつものようにふわりと微笑んだ。
「そう、だな」
辛うじて頬を緩ませたといった表情で高虎は再び歩を進める。
男は、今は亡き弟が愛したもらい子を、覚えているのだろうか。
-----------------------------
秀吉に対して良い感情は持っていなさそうだよね・・・と思いながらふと出てきたもの。
高吉はその男を眼前にした希少な出来事に目を見張った。
半歩前を歩む高虎の視線を感じたが、高吉は男から目を離すことが出来なかった。
「あの方が、太閤殿下、ですか」
高吉の視線は何処か厳しいものがあった。
視線をそのままに尋ねる高吉に眉を僅かに顰めながら、高虎は頷く。
「そうだ」
「豊臣、秀吉・・・様」
「そうだ」
言葉足らずな吾子のように呟けば、高虎は再び静かに頷いた。
高吉は相変わらず視線を前に向けたままだった。
未だ動こうとしない彼に先を急ぐよう高虎は促したが。
反応は無いに等しかった。
その熱の篭もった視線に気付いたようで。
男が彼らの方へと身体を向けてひょこひょこと近付いて来た。
「藤堂!」
高虎を認めて男は満面の笑顔を見せた。
その笑顔に高虎は微笑を返す。
「これは、太閤殿下。お声を掛けて頂くとは」
つらつらと丁寧に述べる高虎よりも、感じた視線の主が男には気になる存在であった。
「倅、に御座います」
そっと高虎が言うと男はなるほど、そうかとゆったり頷き、
「唐入りでの功、期待しとるぞ」
男は高吉の肩を軽く叩いた。
「心得まして御座います」
にこりと頬を歪ませて高吉が頭を下げた。
その微笑みを見、眉をぴくりと動かしたが、高虎は押し黙ったままでいた。
「よし、よし」
彼の返答を満足気に男は頷き、そうして次に絡む目ぼしい武将はいないかと身を翻した。
高吉はじと穴が開かんばかりにその背を見つめ、やがて
「すみません、義父上。行きましょう」
いつものようにふわりと微笑んだ。
「そう、だな」
辛うじて頬を緩ませたといった表情で高虎は再び歩を進める。
男は、今は亡き弟が愛したもらい子を、覚えているのだろうか。
-----------------------------
秀吉に対して良い感情は持っていなさそうだよね・・・と思いながらふと出てきたもの。