ゆっくりとした動作で、湯飲みを口元へ運ぶ。
まるで茶道の手解きを受けているかのような気分にさせられつつ、勝永は相手が飲み干す様をじと見つめていた。
視線に気付いたようで、幸村は湯飲みから目を離しにこりと微笑む。
「こんな話が、あります」
唐突に始まった台詞。
話を振ってきた幸村に、勝永は、珍しいものがあるもんだと思いながら、無言で先を促した。
「ある時、森の中を、歩いていました・・・。
周りに、気配を感じると、十数人の落ち武者が、襲われていました」
小首を傾げながらも、勝永は合槌を打つように頷く。
幸村の表情は相変わらず穏やかだった。
「襲う側の者は、私に免じて、
この武士の中にいる領主を殺せば、他の武士は見逃すが、さもなければ、皆殺しにする、と言いました」
「それは」
勝永が眉を顰めて言いかけた言葉を飲み込む。
ことりと音を立てて幸村の湯のみが置かれた。
「勝永殿ならば、如何致しますか・・・?」
微笑を滲ませた幸村の表情に、勝永は視線を落とす。
「オレ、は」
それっきり、しばらく勝永は口を噤んだ。
「又兵衛殿は、困ったような、表情をしておられました・・・」
ぽつりと呟かれたそれは空気を和らげようとしたのか、勝永を解放したのか。
勝永が顔を上げると幸村は部屋の外を眺めていた。
「聞いたのか」
「はい」
視線は外を眺めたまま、幸村は答えた。
ふ、と短く溜息を吐いて
「それ、さ」
言いながら勝永は幸村の頬を両手で挟み、強制的に自身の方を向かせた。
「盛親には言ってやるなよ」
瞬きを繰り返す幸村に、勝永はすっくと立ち上がり、
「悪ィけど、オレにも難しいよ、それ」
逃げるように部屋を出ようとした。
出る際、幸村の耳に小さく、ごめん、と聞こえた。
--------------------------------
こういうジレンマな判断は理論的ではなく情緒的に行なわれるのだとどっかでありました。
情報が足りなさ過ぎるのも相まって、考えれば考えるほどわけわからなく・・・
そして結局誰も自信の答えを言ってないという。
我が家の幸村は、襲う側を惨殺しそうだ、なんて(恐いよ
「このお守り酷いよ?」
そういって差し出されたお守りは紅かった。
よくよく見ると、所々糸が解れている。
嗚呼そのお守りは、もう駄目だ。
「不吉だね、捨ててしまいなよ」
お守りを差し出してきた彼は、そのままふっと何処かへお守りを投げようとした。
「・・・だめっ」
必死でお守りを彼からひったくって己の胸におし抱く。
どうしてそんなに必死なのかわからなかった。
ふと目が覚めると、視界には畳が飛び込んできた。
ああどうやら寝てしまったのだとそこで気付く。
「幸村」
突然振ってきた声にびくりと肩を振るわせる。
振り返ると盛親殿が襖の側に立っていた。
「もりちか、殿」
我ながら随分と寝ぼけた声をしたものだと胸の内で悪態吐く。
「これは貴方の物だと聞いたのだが」
そういって差し出されたお守りは深緑だった。
金糸の刺繍は美しく、古さを感じさせない。
嗚呼そのお守りは、兄上からの。
「汚れていなくて良かった。どうぞ」
お守りを差し出してきた彼は、ゆっくりと屈み込んで手渡す。
「ありがとう」
それを己の胸におし抱いてにこりと微笑む。
「失くして・・・悄然としていた所、です」
------------------------------------
友人の夢の話を聞いて。
私夢見た記憶がここ半年ない気がするんです・・・
くそう。夢はネタの宝庫だと信じてるのにっ
書状を読んでは脇に置き、素早く次の書状を広げる。
どれも重要で、早急な対応を求められる内容である。
行き着く暇も無く作業を繰り返してどれほどの時が経っただろうか。
小西行長が丁度そんな事を思ったところに、
「ん」
ふと感じた重さで思わず声が漏れた。
行長は眺めていた書状から目を放し、肩越しにそっと振り返ると小さな身体が見えた。
規則正しい寝息と共にじんわりとした温かさが背中から全身へと伝わってくる。
何時の間に。
行長はそう思うと同時に何しに来たのか、と軽く溜息を吐いた。
小さな主は起きる気配を見せない。
「まぁ、ええか・・・」
揺り起こそうとした腕を静かに下ろし、行長は床に転がった書状を拾う。
びっしりと文字が書かれたそれは、今となっては書状というより最早眠りへと誘う道具でしかなかった。
全登が廊下を歩いていると、ふと書状の端らしきものが部屋から飛び出ていた。
ひらひらと風に靡き、空へ舞うのは時間の問題だった。
書状を取り上げようと全登は腕を伸ばす。
しかしながら書状に触れるか否かでその腕はぴたりと止まった。
「おや、まあ」
吐息が漏れる程度の声音で呟く全登。
彼の視界に見えたものは、背中合わせに寝息を立てる秀家と行長の姿だった。
書状はしっかりと行長の腕で押さえつけられている。
暫く眺めていた全登だったが、視界の端でひらりと書状が揺る。
それを見、彼は行長の腕からすっと書状を抜き去り、丁寧に畳んだ。
机に置こうとするとそこには先客が居る。
南蛮菓子だった。
直家へ行長が献上した一部が秀家へと渡り、その秀家は行長と献上された一部である南蛮菓子を食べようとしていた。
と言う所だろうと全登は勝手に納得し、菓子の脇に書状を置く。
変な所で遠慮をするものだ、と全登は苦笑した。
部屋を出る間際、再び視線を寝こける二人に向ける。
起きる気配は無い。
何か掛ける物を用意しよう。
全登はくすりと微笑んだ。
-----------------------------
ほのぼのを目指して。
宇喜多を書こうとするとどうしても行長と全登付きに・・・。
他はキャラ出来るほどよくわからないから、です(汗)
高虎は思わず仰け反った。
夏の匂いを感じさせながらも、春の涼やかな風が吹き抜ける縁側に秀長はいた。
珍しくゆったりとした時を過ごしている。
彼は高虎の存在には未だ気付かず、穏やかな表情で視線を下へと向けていた。
その表情を見たものは何者であれ和むだろうという確信を持ちながら、しかし高虎は秀長の視線の先のものにいらだちを覚える。
何故あれがこのような時にいるのか、と。
「高虎」
幾分疑問を含んだ呼び声に高虎は瞬時に我に返る。
は、と短く返事をし、いそいそと側に寄った。
正座する秀長の膝には頭が乗っかっている。
ぐっすりと寝ているようだった。
生憎と顔は見えないが、高虎にはわかった。
これは、加藤嘉明だ。
高虎は無意識にその頭を睨みつけていたようで、秀長が彼の眉間に人差し指をそっと当てた。
「皺が寄っている」
くすくすと笑う秀長に高虎は恥じ入るように己の拳を見つめた。
「孫六の頭が乗ったとて、足は痺れないから、大丈夫」
高虎が睨みつけていた原因を勘違いして秀長は心配ない、と微笑んだ。
何ともいえない表情をして、高虎は秀長を見つめ、
「あまり甘やかさないで下さい」
言うと秀長は、母親のようだ、とまた笑った。
-------------------------------------
甘えたいけどそんな歳でもないしましてや主君だし、悶々。
初々しくいてくれ。
からから。
からから。
風に吹かれて風車が舞う。
それは良い。
と盛親は一人で頷いた。
不可解なのは、と風車からゆっくりと視線を下ろす。
「可愛いでしょう?」
横で全登がにこりと微笑む。
一瞥するにとどめて盛親は改めて眺める。
「鯉のぼりで御座いますよ。ご存知ありませんでしたか」
しげしげと見つめる盛親が可笑しいのか全登はくすりと笑った。
「知っている」
盛親の憮然とした物言いに全登はああ、と手を打った。
「これは残念ながら童のいない鯉のぼり夫婦でして」
「どうでも良い」
「もしや吹流しも御所望で御座いましたか」
「・・・」
「おや。怖いお顔を。鯉のぼりが逃げますよ」
どうやらこの切支丹には勝てないようだ。
盛親は何度思ったか知れないことをまた思う。
彼はふ、とため息をついた。
「何故俺の部屋へ置いたのか、聞かせてもらいたい」
そしていつの間に部屋へ侵入したのかも。
怒りの空気は微塵も滲ませずに盛親は尋ねた。
ただ表情は硬いままではあったが。
全登はというと、聞く姿勢こそ天晴れであったが、返答は極めてあっけらかんとしていた。
「今日はこどもの日で御座いますから」
------------------------
今日こどもの日だ。
と気づいたのが6日がはじまる1分前。